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『360°のニューヨーク:アート・ムーブメント1994-2000

(日影眩、ギャラリーステーション、2000年)

360°のニューヨーク 去年の暮れから今年の1月いっぱい、ぼくと家内がニューヨークに旅行した折、家内と以前から見知っていた日影眩さんに、ニューヨーク界隈を案内していただいた。ちょうど、ニューヨーク近代美術館(MOMA : The Museum of Modern Art)が改築中だったこともあって、臨時に移転していたモマ・クイーンズ(MOMA QNS)へ案内していただいたり、クイーンズ地区でおいしいギリシア料理のお店を紹介していただいたり、いろいろお世話になったのだった。その節は、大変ありがとうございました。谷口吉生設計の新モマも、11月20日にオープンしたようだ。時間の流れは、早い速い。

日影眩氏は、日本ではイラストレーターとして活躍されてきた方だが、「絵を買わない」日本人の「怪しの東京クソ美術界」に見切りをつけ、ニューヨークで活路を見出そうと奮闘されている画家である。で、本書は、その日影さんの1994年から2000年まで、つまり20世紀最後の6年間に「月刊ギャラリー」誌に連載された“ニューヨーク・アート奮戦記”なのだ。本当は、絵描きである家内が日影氏からサイン入りで贈呈された本なのだが、家内はあまり読まず、ぼくの方がはまって読んだのだった。日影さん、スミマセン。

本書では、「まあ私としては、書いた作者も、これを書いたために人生がメチャメチャになったという、そういう文章を期待してます」(p.13)という編集長に一所懸命応えようというのか、かなりドギツイことばに溢れている。だがしかし、学者が訳知り顔で観念的かつ抽象的な言辞を弄するのとは違って、経験に裏打ちされたホンネの「ことば」であるからだろう、なるほど、そういう見方もあるのかと考えさせられもすれば、個々の作品や作家への尊敬が見え隠れもする。ニューヨークの現場から日本の文化状況を逆照射することばには、日本への苛立ちと愛情が交差している。実をいうと日影氏は、法政大学の哲学科卒であり、哲学や文化論などその辺りのこともちゃんと踏まえていらっしゃるのであった。

「アート本流とされる部分の仕事は、やっぱりクソ面白くない」(p.33)という日影氏は、忘れ去られた作家、メディアが相手にしない作家たちも多く取り上げる。日本とニューヨークのあまりの環境の違いを語りながら、「生いたちとは一人のものではない。その時代、その環境で育った多くの人々が共に居ることを意味するのだ。/生いたちとは何の関係もなく、時代のトレンドに合わせて借り物の表現スタイルを選んでいる日本の友人達よ、どうする?」(p.27)と問いかけ、夢幻のニューヨークへと誘いもする。本書は、これから美術を志す若い世代へのメッセージでもあるのだ。

日本にいると、海外の美術情報といえば、大掛かりな展覧会やイベント情報しか伝わってこない。こうした現場の猥雑な雰囲気に溢れるレビューは珍しく、90年代後半のニューヨーク美術の資料としても面白い。巻末には、ニューヨーク画廊街の歩き方ガイドも載っている。ニューヨークのギャラリーも浮き沈みが激しいようで、すでに無くなった画廊もあるかもしれないので、近々ニューヨークへ旅行する人のための最新情報とはいえないが、参考にはなる。

あらゆる文化現象は、政治や経済と密接に連動している。2001年9・11以後、流動化し始めた国際社会のなかで、第二次大戦後、長く世界の美術の中心地であったニューヨークがいつまで世界の中心でいられるのかわからないが、依然として日本にはない潜在的なエネルギーと魅力をもった街であることは間違いない。どうやら日影さんは、グリーンカードを取得して、ニューヨークはブルックリンに永住されるようだ。今後のご活躍をお祈りしています。

ほとんど放置状態というホームページでも、日影氏の絵画作品とエッセイが紹介されています。
GEN・HIKAGE (http://mysite.verizon.net/hikage/)

(© 2004/11/22 Hata)

■書籍データ■

  • 表 題:『360°のニューヨーク:アート・ムーブメント1994-2000』
  • 発行日:2000年9月30日 初版第1刷発行
  • 著 者:日影眩(ひかげ・げん)
  • 発行人:本多隆彦
  • 発行所:株式会社ギャラリーステーション
  • ISBN 4-906535-86-0 C1070
  • 形 態:320p ; 21cm

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