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The Portable Thoreau (Penguin Classics)
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『THE PORTABLE THOREAU』

(Henry David Thoreau, The Portable Thoreau, edited and Introduced by Carl Bode, The Viking Penguin Inc., 1977.)

『THE PORTABLE THOREAU』 春は、新しい生命の季節だ。毎年、この季節になると繰り返し読みたくなるとっておきの一冊がある。ヘンリー・D・ソローはそんな著作家の一人だ。たとえ都市では気づかれることが少ないとしても、ぼくたちの生活は人間社会ばかりではなく自然環境とも深く結びついている。ヘンリー・D・ソローはそのことを180年も前に、誰よりも深く考え、実践し、今日の自然保護思想・政治思想にも大きな影響を与え続けているのだ。

ソローといえば、ウォールデン湖のほとりに自分で建てたログハウスに二年間にわたって住み、そこでの自然観察と思索を記録した『ウォールデン:森の生活』(Walden, 1854)が代表作だということに異論はない。しかし、『コンコード川とメリマック川の一週間』(A Week on the Concord and Merrimack, 1849)や『コッド岬』(Cape Cod, 1864)といったネイチャー・ライティングのほかにも『市民の不服従』(Civil Disobedience, 1849)や『ジョン・ブラウン隊長の最後の日々』(The Last Days of John Brown, 1860)などの政治的作品もある。彼は、けっしてひとつのジャンルに収まるような作家ではなく、何よりも実践する思想家、生活する思想家だったのだ。

I went to the woods because I wished to live deliberately, to front only the essential facts of life, and see if I could not learn what it had to teach, and not, when I came to die, discover that I had not lived. I did not wish to live what was not life, living is so dear. (Walden, p.343)

「ぼくが森へ行ったのは、慎重に生きたかったからである。人生に必要不可欠な事実だけを直視して、それが教えるものを学ぶことができるかどうか、ぼくが死ぬときになって本当に生きてはいなかったことを発見するような目にはあいたくなかったからである。人生とはいえないようなものを生きたくなかった。生きるということはそれほど大切なのだから。」 (引用者訳)

ソローにとって、自然の充実と多様性から学ぶこと、生きること、社会と文化を考えることはひとつのことだ。すべてのことがリンクしあい、共鳴しあって、ぼくたちの存在の神秘を作り出している。だから、ソローのエッセイには人生に深く関わるすべてのことが含まれている。

たとえば『ウォールデン:森の生活』は、たんなる自然生活の記録ではない。自然、生活、経済、政治、文学、哲学、思想、芸術、宗教、およそ人間に関わるもののなかで、なにが「実在(reality)」で、なにが「幻想(fancy)」なのかを見極めること、それこそソローの思索と生き方のエッセンスなのだ。

Shams and delusions are esteemed for soundest truths, while reality is fabulous. ...... When we are unhurried and wise, we perceive that only great and worthy things have any permanent and absolute existence -- that petty fears and petty pleasures are but the shadow of the reality. (Walden, p.348)

「虚偽と妄想が確たる真理としてもてはやされている一方で、実在は架空のものとされている。……急がずに賢明に生きるならば、偉大で価値あるものだけが永遠で絶対的な存在であり、卑小な恐れや快楽は実在の影にすぎないことを悟るだろう」 (引用者訳)

It is never too late to give up our prejudices. No way of thinking or doing, however ancient, can be trusted without proof. What everybody echoes or in silence passes by as true today may turn out to be falsehood tomorrow, mere smoke of opinion, which some had trusted for a cloud that would sprinkle fertilizing rain on their fields. (Walden, p.264)

「偏見を捨て去るのに遅すぎるということはない。思考や行動の方式は、たとえ古代からのものでも、証拠なしに信頼することはできない。今日は正しいものとして誰もが口にし黙認するものが、明日には間違いになるかもしれないのだ。大地に恵の雨を降らせてくれる雲だと信じていたものが、たんなる意見の煙になるように」 (引用者訳)

ソローの思想をひとことで言い表すことは難しいことだし、たいして意味のあることとは思えない。ナチュラリスト、超越主義者、奴隷解放主義者など、さまざまなラベルとイメージが彼を包み込んでいる。初期から晩年にかけて、説明のつかない矛盾も見出せる。しかし、ソローの思想の背後には西欧の伝統的文化ばかりでなく、東洋の古典の叡智も煌めいているのだ。そうして彼の多くのエッセイには、国家と個人地球環境問題情報化の問題等々、いまだからこそアクチュアリティをもつさまざまな課題が先取されていることに、気づかない者はいないだろう。

ぼくたちには、ソローのように生きることはできないかもしれない。けれども、ソローの言葉に隠れている「本質的な事実」を読み取って、ぼくたちの生活に活かしていくことはできるかもしれない。ぼくたちは、もっと自然を、書物を、読むことを学ばなければいけない。

To read well, that is, to read true books in a true spirit, is a noble exercise, and one that will task the reader more than any exercise which the customs of the day esteem. ...... Books must be read as deliberately and reservedly as they were written. (Walden, p.353)

「きちんと読むこと、つまり、ほんものの書物をほんものの精神で読むことは気高い修練であり、今日の習慣が尊重しているどんな修練よりも読者にきびしい努力を強いるものである。……書物というものは、それが書かれたときと同じように慎重に、注意深く読まれなくてはならない」 (引用者訳)

ソローの著作の多くは日本語でも読める。たとえば、『ウォールデン:森の生活』などは、下記のようにいくつもの翻訳が出版されている。けれども、是非とも原書で読んでもらいたい。へたな英会話にお金をつぎ込むよりも、多くのことを学べることは間違いないのだから。

春は目覚めの季節だ。凍てついた旧習の季節から、必ず新しい生活の芽が萌えいずる。ソローの言葉は、どこまでも自然への敬意と人間への信頼に満ちている。そして未来への希望、勇気を与えてくれるのだ。

The light which puts out our eyes is darkness to us. Only that days dawns to which we are awake. There is more day to dawn. The sun is but a morning-star. (Walden, p.572)

「目をくらます光は、ぼくたちにとっては闇である。ぼくたちが目覚める日だけが夜明けを迎える。夜明けの日はまだこれからだ。太陽だって明けの明星にすぎないのだ。」 (引用者訳)

(© 2004/04/19, Hata)

■書誌データ■

  • Title : The Portable Thoreau.
  • Published in Penguin Books 1977,
    Reprinted with a new Bibliography 1982.
  • Author:Thoreau, Henry David, 1817-1862.
  • ISBN 0 14 015.0315
  • 698 pages

関連情報

『森の生活:ウォールデン(上下)』表紙
  • 『森の生活:ウォールデン(上下)』
    岩波文庫(赤307-1, 2)
  • 著者:H. D. ソロー 訳者:飯田実
  • 発行所:株式会社岩波書店
  • ISBN 4-00-323071-X
  • コンコード、ウォールデン付近の挿図が豊富
『ウォールデン 森で生きる』表紙
  • 『ウォールデン 森で生きる』
    ちくま学芸文庫(ソ2-1)
  • 著者:H. D. ソロー 訳者:酒本雅之
  • 発行所:株式会社筑摩書房
  • ISBN 4-480-08547-5 C0198
  • ヘンリー・D・ソロー略年譜付
『森の生活──ウォールデン』表紙
  • 『森の生活──ウォールデン』
    講談社学術文庫(961)
  • 著者:H. D. ソロー 訳者:佐渡谷重信
  • 発行所:株式会社講談社
  • ISBN 4-06-158961-X
  • ヘンリー・D・ソロー年譜付(詳しい)

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